【未終零ノ章】

その後、数時間にわたってテストの自己採点をしながら他愛のない話で盛り上がった。 時刻がP.M.18:00を過ぎた頃、そろそろ解散の流れができていたのだが、今日が金曜日で明日から三連休だった。なので、当然のように寧音に声をかける。竜也ではなく空ではあったが。 「寧音ちゃん、この三連休予定ある?」 寧音は困ったように竜也に視線を送った。竜也はもちろん 「悪い空、明日は二人で遊園地だ」 当然のように助け舟を出した。 「寧音ちゃん、明後日は?」 「悪い空、明日〜明後日にかけて二人でお泊まり会だ」 竜也は間髪入れずに答えた。 「寧音ちゃん、最終日は?」 「悪い空、二人でデートだ」 空はポーカーフェイスをしているが、相当頭にきているだろう。 「僕は竜也に聞いてるんじゃないんだ」 やっぱり。 「どっちが答えても同じだろ?」 「僕は寧音ちゃんの口から・・・」 空の言葉を遮って 「寧音が断るの苦手なの知ってるだろ」 「それでも・・・」 「二人とも喧嘩はやめて!」 いきなりの大声に驚いた二人。 「ごめん、寧音」 「ごめんね、寧音ちゃん」 「空くん、ごめんね。三連休はずっと竜也といるんだ」 「ほらみろ」 「竜也もマウント取らない!」 「ごめん」 「分かったよ・・・・また学校で」 この言葉を残して空は帰っていった。二人が空と学校で会うことなどこれから先二度と訪れないことはこの場の誰も知る由もない。 「寧音、フォローありがと」 「竜也のすぐ熱くなるとこは相変わらずだね!」 「いつもありがとな」 「まあ、そこも好きだけど」ボソッ 「ん?何か言ったか?」 「何も」 「そうか」 「うん」 寧音の頬が淡く赤くなっていることには気づかないふりをした。 そして、二人は帰路についた。

次の日、空には遊園地に行くと言ったが、生憎、空模様があまりにも悪いので、お家デートになった。三連休、竜也の家族は旅行に行くらしい。帰ってくるのは三連休最終日の夜だそうだ。もちろん、竜也と寧音が付き合っていることも、寧音が泊まりに来ることも了承済みだ。寧音の親はいない。という訳ではないが、一年に数回会えればいい方という程忙しいらしく、長期休暇や三連休などは祖母の家に泊まることが多いらしい。更に、祖母の家は東京圏内を出る必要があるらしく、祖母の家に泊まると竜也とデートできないとのことなので、せっかくならと、竜也の家に泊まることになった。実は二人は互いに隠している事がある。それは、二人とも「オタク趣味持ち」なのだ。寧音の家でお泊まりにならない理由は、寧音がオタバレを防止したかったがためである。竜也もオタバレしたくない事には変わりは無いが、隠せばいいと思っている。そんなことを考えているので、当然、バレる。 「ねね、竜也」 「どうした?」 「これ、何かな?」 「あっ、」 「ん?何かな?」 「いや、それは、その」 「ん?何かな?」 今見つかったのは決して浮気の証拠などではなく、オタバレしただけだ。そう、寧音も同じ様な趣味を持っている。だから寧音が怒っている、もとい、不機嫌なのはなぜもっと早く言わないのか、言ってくれればもっとコッチの話もできたのに。ということである。竜也からしたら理不尽極まりないのである。 「えっと、俺の趣味?」 「なぜ疑問形」 「いや、隠し通すつもりだったんだけどなぁ」 「こういう趣味?」 「うん」 「別に隠すことなくない?」 「嫌だろ?彼氏がこういうオタク趣味って」 「え、勝手に決めつけないでよ!私全然気にしないし、というか嬉しいし」 後半、声が萎んで聞き取れなかった。顔は淡い赤に染められていた。 「竜也、私、竜也に隠してることがあるの」 いきなりのカミングアウトだ。当然驚く。 「あの、ね?私もオタク趣味あるの」 「え?マジ?」 「うん」 「マジかー」 「なんか、変な遠回りしちゃったね」 「そうだな」 それからその夜は2人でオタクな話を一晩中決め込むのだった。 アニメの話、ゲームの話、マンガの話、ラノベの話。2人の趣向こそ違ったが、互いの好みを互いに受け入れ、とても長い夜になった。

翌日、二人は外に出掛けていた。昨日遊園地に行けなかったので、今日遊園地は難しくてもショッピングならということになり、こういうことには疎い竜也に代わり寧音が主導でショッピングモールに来ていた。 「た〜つ〜や〜!」 「そんなに急がなくても」 「それじゃ時間が足りなくなっちゃうよ〜!」 「分かった分かった」 竜也は嫌そうにというわけではまったくなく、むしろノリノリでニコニコで寧音を追いかけて行った。

そこにはただ、怒号が響いていた。 「おい!ここの作業疎かだぞ!」 「「すみません!」」 偉そうに指示を出しているのは、そう、ただの作業員である。 謝ったものの、改善しようとしないのも世の常である。 「やっぱあいつウザくね?」 「あー、思った」 「おい、やめとけ。バレたらこっぴどく怒られるぞ」 そんなこんなで愚痴をこぼしながら悪態をつきながら作業を続けている。 ここは、竜也と寧音が遊びに来ているショッピングモールである。

女子高生とショッピングモールでお買い物。聞こえはいいが、要するに荷物持ちである。もちろん竜也も例外ではなく、寧音のお買い物が終わるのを待っている。今は女性用服装店で待っている。 ピシッ 「ん?」 とても小さい音だったので竜也以外気づく人はいなかった。竜也もまた、周りが気がついてないと分かると気にすることなくスルーした。 「おまたせ〜!」 「ん?あ、あぁ」 「どうしたの?何かあった?」 「いや、なんでもないよ」 「そう、ならいいけど」 ピシピシッ 「なあ、寧音」 何か聞こえないか?と言おうとしたその時だった。・・・・・視界が赤く染まったのは。傍には寧音だったものと思われる足が転がっている。竜也が握っている寧音の手の先には誰も、否、何もなかったのだ。

その日、視界から光が消えた。

「ね・・・ね・・・・?」 竜也はその場に立ち尽くす事しか出来なかった。 ピシッ その音は竜也には届かず、何が起こったか理解もできず━━━━━━━━━━━━━━━暗転した。